第1話 「小さな手の話」
 大道芸を始めてやっと半年経ちました。まだまだ未熟です。
大道芸をしていてよかったなぁ〜と思うのは、いつだって
お客さんの笑顔をたくさん見られた時です。
いくつものそんな出会いが、今日まで私を支えてくれたと思っています。

 このコーナーでは、その中から、思い出深い出会いのエピソードを
紹介させて頂きますね。
 あれはまだデビューして一ヶ月くらいの時。
芸を終えた後に、お母さんに手を引かれた二、三歳の男の子が
にこにこして歩いてきました。
思わず私も笑顔になり、しゃがんで話し掛けました。
「暑いのに見てくれたんだね。ありがとう。」
そう言って頭を撫でると、彼は身体中で喜んでくれたのです。
「もう終わったよって言っても、帰りたがらないんですよ〜。」
お母さんが困ったように笑って言いました。
 よくバルーンが欲しくて、芸の後に待ってくれるお客さんはいますが、
どうもそうではないらしい…。
私も彼の笑顔に応えたくて、何かしてあげたいと思いました。
見てくれたお礼をしたいと思ったのです。
 座ったまま手を差し出して握手しようと言うと、飛び跳ねながら
私の手を握りにきてくれました。
小さいけど、温かくて、力強い手でした。
なんだかもう、彼が可愛くてたまtらなくなって、お母さんに聞きました。
「だっこしても、嫌がりませんかね?」
「ええ。大丈夫です。」
 次の瞬間、私は彼の両脇に手を入れて、高々と持ち上げました。
彼は声を立てて、すごく嬉しそうに笑ってくれています。
今度は彼の身体をしっかりと抱き抱えて、足だけぶらぶらさせた状態で、
自分がぐるぐる回って見せました。右に、左に…。
「ほぉら。メリーゴーランドだよ〜!!」
(注:小さいお子様の扱いに慣れない方は真似をしないで下さい。)
彼は「きゃ〜!」と喚起の声を上げ、心の底からの笑い声を、
存分に私に聞かせてくれました。
最後にきゅっと抱きしめて、もう一度お礼を言いました。
「見てくれて、ありがとう。」
すると今度は彼の小さな手が、私の頭を撫でてくれたのです!
その時の嬉しさと言ったら…言い表しようがありません!
まさに天にも昇る気持ちでした。(笑)
 再びお母さんに手を引かれて、ゆるやかな坂を上って帰って行く彼。
「ばいば〜い。」
とあの小さな手を何度も強く振って、何度も何度も振り返りました。
本当に姿が見えなくなるまで、ずっと振り返っては、手を振って…。
 私もその親子が完全に見えなくなるまで、手を振り続けました。
なんだか胸が熱くなるような出来事でした。
 あの小さな手に、その日の夕方まで、頑張って芸をする元気を貰いました。
そしてあの後姿は、一生忘れられない光景として、心に残りました。

芸をして喜んで貰うのはもちろんですが、こうしてふれあって喜んで
貰う事も大切にしていこう…と決めた瞬間でした。
すべては、お客さんに楽しんで貰う為に。

 こういう素敵な出会いがいくつもあるからこそ、めげずにまた路上に
立てるのだと思います。
そもそも大道芸をしていなければ、決して味わう事の出来ない
出会いですからね…。

 いつかあなたとも、この道の上でお会いしましょう。

                                     2001年10月31日発行


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