第2話 「魔法の手の話」
 自分の芸の中で、一番好きなのは風船芸。
色とりどりの長い風船をひねって、動物や花の形を作る。
最も近くでお客さんと触れ合えるのが好き。
目の前で笑顔を見られるから好き。
 去年の夏。
照りつける太陽と見えない闘いをしながら、いつものように
大道芸をしようと、路上に立っていた私。
 真夏の午後。道行く人は、涼しい場所を探して、足早に過ぎて行く。
…もう少し涼しい風が吹いてくるまで、大道芸始めるの待とうかな…。
大きな木の陰で、自分も涼みながら、思案に暮れていた。
 そんな私の耳に飛び込んできた、ひとつの声。
「お母さん。あれなぁに?」
日傘をさしたお母さんと、花柄のワンピ^スの小さな女の子。
 指を差しているのは、私が持っているペットボトル…についた小さな花。
風船で出来ている、小さな花。
「風船で出来てるんだよ。おいで。」
ポケットから風船を出して、声を掛けてみた。
彼女は母の顔を見上げて、うなずくのを確認した後、まっすぐに駆け寄って来た。
 その目は期待でキラキラと輝いている。
華の頭に、玉の汗をかきながら。
これから起こる何かへの期待を隠せない様子で。
 赤い風船に息を吹き込んで、彼女の為に風船をひねる。
風船の音に驚いたり、私の話に声を立てて笑ったり…。
その表情がくるくる変わる。
時折嬉しそうに母の目を見上げて、母もそれにうなづく。
 「ホラ。お花の腕輪だよ。」
そう言って、少女の手に風船をつけると、飛び上がるように喜んでくれた。
「お母さん、見て! すごいね! 綺麗ね!」
「お姉さんの手は魔法の手だね。」
………!!
 なんて素敵な言葉なんだろう…! 自分の手が魔法を使えるだなんて…。

 暑い夏の、ほんの短い出来事が、それからの私の風船芸に、とても大きな
力を与えてくれた。
 ハリーポッターのようにはいかない。
空を飛ぶ事も、何もないテーブルの上にごちそうを出す事も出来ない。
 でもこの小さな手で、夢や笑顔を与えてあげられる事を「魔法」と呼べるのならば。
私はこう言えるようになった。
「これが、私の使える、最高の魔法なんだよ。」

                                2002年 3月8日 発行


 一覧表に戻る